家系ラーメン集◎青物横丁「まこと家」
ちなみに京急の列車種別は快特、特急、エアポート急行、普通、というように分かれているが、上から2番目の優等列車が停車する駅ということで、駅前には数多くの飲食店が存在するが、他の路線との乗り換えができるわけではなく、ターミナル駅ではない。
京浜急行線は国道15号線(いわゆる第一京浜)と並走しているが、この国道15号は毎年1月2、3日になると箱根駅伝が行われる、日本で有数の幹線道路であり、片側3車線を有する都心の大動脈である。
この国道15号線の道路沿いに煌々と輝く黄色の看板を掲げるのがここ「まこと家」である。
口コミを調べてみるとどうやら、まこと家の店主は「川崎家」で修行したようであり、この川崎家は「本牧家」の血統のようである。本牧家といえば、家系ラーメン総本山「吉村家」の直系店である。
家系ラーメンの楽しみといえば、ラーメンの味を楽しむ他に、そのお店がどのような歴史のもとで成り立ち、どのような味に進化したのかを考察することがあげられる。ここ「まこと家」の由緒正しき系譜を辿ることで、初訪問がひときわ楽しみになった。
大きな幹線道路沿いにも関わらず駐車場は用意されておらず、来店客は道路沿いに車を一旦停車させる必要がある。青物横丁という駅はそれほど人の多い駅ではないが、車でのアクセスもよく、ドライバーのオアシスとしての役割も果たしているようである。
ガラス戸をガラガラとスライドさせて入店すると、家系ラーメン定番である食券の券売機がないことに気づく。店内に掲げられるメニュー表を見て、カウンター内にいる店員さんに直接オーダーする仕組みだ。
値段を見ると、ラーメン700円。家系ラーメンの相場としてはやや高額の設定であるが、実はこのラーメン、家系ラーメンを定義づけるトッピングのひとつ、ほうれん草が乗っていない。このことを含めると、価格設定は強気と言っても過言ではないことが伺える。
横長のカウンター内で手際よく流れる作業を見ていると、私の丼が運ばれてきた。
小さめのチャーシューの下には透明のアブラの層が広がっている。丼の底に溜まっているタレを攪拌するためにレンゲで混ぜてやると、芳しき茶色の濁りが湧き上がってくる。
ほどよく攪拌されたスープは濃い茶色を残しており、「魂心家」などに代表される近頃流行りの量産型乳化スープではないことが伺える。先ほど当店の血統を述べたが、改めてここ「まこと家」が直系のスピリットを受け継ぐ、タレのシャープな切れ味のラーメンであることがわかった。
スープをひと口いただくと、まず動物系の暴力的なアブラがボディーブローのように喉を越し、香りが鼻に抜ける。しかしこの豚骨のパワーを、タレの強烈な塩味が流し込んでくれるワイルドな一杯だ。
麺をいただく。酒井製麺所。「吉村家」を含む、直系リスペクトの多くの店が採用する中太麺だ。短めに切られた酒井製麺の麺には鶏油がまとっているが、この点がこの店の特徴に思えた。
鶏油が麺にまとわりつき、少しヌルヌルとした感じである。鶏油が添える香りも家系ラーメンの特徴のひとつであるが、私には少し過度であると感じたため、後日、再訪した際はオーダーを変えてみることにした。
「固め、濃い目、アブラ少なめ」
これが私の「まこと家」でのベストチョイスである。
家系ラーメンの楽しさはいくつもあるが、麺の硬さ、味の濃さ、アブラの量を変えられることも楽しみのひとつである。
今では都内にも多数存在する家系ラーメンであるが、どれも似たような醤油豚骨ラーメンと言えど、決まった家系ラーメンのルールの中で、店ごとに個性がある。オーダーを全て“普通”で頼むことで、その店の個性を知ることができるが、その店の味を自分好みにチューニングするための自己流のオーダーを探すこともまた、家系ラーメンの楽しみのひとつなのだ。
なお、まこと家では、ほうれん草の他に茎わかめもトッピングでき、それが旨いようであるが、これらのトッピングは200円。家系ラーメンに900円というのはいささか高級である感じがするが、ひとときのブルジョワ気分を味わいたい時は挑戦してみようと思う。