初めての二郎系「肉汁らーめん公」
初めての体験というのは、いくつになっても嬉しいもので、30の私は今日も初挑戦を試みた。
初挑戦といっても、たいそうなことはしていない。
皆さまの多くは普通に経験済みのことである。
「二郎系(インスパイアという?)」を初めて食べた。それだけである。
私自身、かれこれ10年くらいラーメン好きをやっているわけだが、“二郎”だけには食指が動かなかった。
様々な場所で「二郎系食べた!」という報告とともにアップされる写真の多くは、大量のもやしと、アブラの肉塊のようなチャーシューが丼を覆い隠し、食べ物というよりは餌という呼称が相応しく思えるような見た目に、ラーメンを食べたい時の欲望を満たしてくれる代物だと思えなかったからである。(が、結局おいしかった。)
事実、二郎を敬愛する方々の中には「二郎はラーメンではなく二郎という食べ物」というような表現をされる方もいらっしゃるようである。
私が二郎から遠ざかった理由は上記のような外見・量のハードルの高さの他に、店特有のルールがあるという噂がハードルとなっていた。が、満を持しての挑戦を試みた。
なんでもジロリアンの方々は「Mashi-mashi」なる呪文を唱えることで幸せになっているようであるが、私はビギナーなので、可能な限り食べきれそうなオーダーで門を叩くことにした。
京浜急行線、新馬場駅から天王洲の方へ歩くと交差点にある「肉汁らーめん公」。外にもメニューの写真があり入りづらいということはない。一般的なサイズに見えるラーメンの写真が飾られていたことが入店のきっかけである。
食券を買う際、サイズ毎の麺のグラムが書いてあり、120gと書かれた「らーめん普通」を頼むことにした。麺のグラムなんてピンと来ないと思ったが、つけ麺屋ではグラム表記をしている店が多い。つけ麺の中盛りだと230gくらいが相場だと思ったが、それを考慮すると120gは間違いなく少ないはずである。上に乗ってくる具材の量が分からなかったので、これにした。
食券を渡すと、やはり無骨そうな店員さんが「トッピングは?」と聞いてくる。家系ラーメン店でだったら通用する私お得意の呪文「カタメコイメ」は通用するはずもなく、店内のメニュー表を参照し、オーダーした。にんにくを入れて味濃いめにするようなオーダーである。野菜など、なにかを増すような注文はしなかった。
オーダー後、親父さんが鉄板焼きで使うような鉄の板の上でもやしを焼き始めた。
アウェイ戦に緊張しながら待っていると丼が到着。
サイズを見て胸を撫で下ろす。良心的なサイズだ。
やはりもやしは多く乗っているが、日高屋の味噌ラーメンと同じくらいである。
にんにくは刻み。背脂が浮いたスープは透き通っていた。
スープを一口いただく。濃いめにしただけあって刺さるような塩気があるが、同時に奥の方から酸味が少々。出汁由来だろうか。
もやしの丘を崩しながら麺と一緒にいただく。もちもちとした麺は噛むほど不思議なくらい甘みを感じる。あまり下処理されてなさそうなもやしは野生的な味だが、噛むほどうまい。スープもがつんとしょっぱくて、刻みにんにくも効いているが、みりんなのか化調なのか、やけに甘い味があとをひく。
口コミを見る限り、チャーシューがパサパサしていると言われていたが、確かに脂身は少ないものの厚さのわりにはしっとりしており、ハムのような旨味を感じられた。1枚だけなので、ちょうどよかった。
店内には仕事終わりで作業服を着た男たちが続々と入ってくる。労働のあとの「Mashi-mashi」目当てであろう。
初めての二郎系に挑戦したわけだが、普通に頼めば普通に美味しいラーメンが出てくることを知ることができた。
もっぱら家系専科の私ではあるが、着実に寿命を持ってく代物であるには変わらない二郎系にもまた、命を削って味わうフリークが多く存在すること確かめることができたのである。