家系ラーメン集◎尾山台「武虎家」

 世田谷区尾山台

 駅前から環八に抜ける石畳の商店街には街路樹が列び、年中イルミネーションのようなランプが灯されている。自由が丘ほど鼻につくような街ではないが、いつも何台ものドイツ車が道端に路駐され、狭い商店街の通行を妨げている。マダムがバケットを買いに来るようなパン屋が2軒。なぜか店頭でエレキギターを売っているクリーニング屋。八百屋ジャズという名前の八百屋は、店主がジャズを嗜んでいる方だと聞いたことがある。

 穏やかな商店街を横道に入れば、大きなガレージがある大きな屋敷が立ち並び、小学校や中学校が近くにあることから子供達の姿も多い、住みやすい街だ。

 さて、そんな街ではあるが、このブログはあくまで、家系ラーメン紹介のブログ。昼間は尾山台・等々力マダムが外車を転がし、毛の長い犬を転がすこの街は、家系ラーメン店などが建つ立地であるとは考えづらい。しかし、商店街を抜けてしばらく行くと、東京都市大学のキャンパスがあることから、日が暮れると授業をこなして街へ繰り出そうという学生が、腹を凹ませてこの商店街のゆるやかな坂を下り、大井町線の小さな駅舎へ向かう。そんな若者の流れをターゲットに見据えたのか、2017年9月オープンしたのが今回紹介する

「武虎家」だ。

 

 筆者はこの「武虎家」の綱島店に訪れたことがあった。名前に既視感があり調べて思い出したので、味の印象は正直おぼろげであったが、店名に“武”が付くあたり、「武蔵家」を彷彿とさせる、濃厚スープだった記憶がある。調べてみると、やはり武蔵家で修行を積んだ店主がいるようだ。

 

 開店祝いの花が立ち並ぶ店先に、数人の行列が作られている。新店舗オープンの瞬間に立ち会えることは嬉しい。

 

 オーソドックスな券売機にはラーメン680円の表示。2駅となりにある、筆者がヘビロテしている自由が丘「渡来武」のラーメンと同じ値段。しかし武虎家はライスが別料金だ。食べ放題50円のライスは、いつも小ライスを頼む筆者にはコスパが悪い。なんて考えつつ、でかい炊飯器からライスを少々、そして、きゅうりのキューちゃん的な漬物を添えてカウンターでスタンバイだ。

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 丼がくる。これは期待大だ。

 

 通常、こってり家系といえば太めの麺が採用されるが、スープに沈む武虎家の麺は細めで美しくしなやかだ。店内を見回すと、家系ラーメン店御用達の酒井製麺を採用しているようだが、このタイプの麺は特注オーダーなのだろうか。スープの見た目も武蔵家系統のドロドロ感は控えめ。壱六家系統の乳化した感じでもない。中華そばの要素を感じることができる丼に期待が膨らんだ。

 

 スープを一口。やはりさらりとしていた。・・・期待以上に。濃いめでオーダーしていたが、家系の醍醐味である、あのガツっとくる塩気や豚骨のボディが、草食系男子だ。思い返せば、ここはマダムが暮らす住宅街。万人受けに傾けてチューニングされているのであろうか。筆者の家系ホーム、妙蓮寺「ゑびす」は、近所の住民が何度も通える味、を目指しているらしく、こってりに傾き過ぎていない。またゴマ家系の黄金町「千家」も思い出される。あの店の珠玉の一杯も、家系とは思えないほどサラリとしている。しかし、デフォルトのゴマが味に深みを加えているので、不思議と物足りなさはない、どころか個性的かつ芸術的な仕上がりだ。武虎家“尾山台店”は、そのゴマを除いたイメージに近い。

 

 方向性的には筆者好みにかなり近いため、初訪問からあまり日をあけず、再訪を試みた。オープンしたばっかりであるがゆえの味の乱れを取り除いて、安定してきたら味が変化するか確かめたかったからだ。結果をいうと、やはり、味のフックはそこまで強烈ではなかった。

 

 ともあれ、尖りの少ない家系ラーメンは重宝する。いつでも食べられちゃうからだ。マイフェイバリットに加えて、しばらく様子を見てみよう。